モノやサービスにお金は払うけど、データにはお金を払わない

モノやサービスにお金は払うけど、データにはお金を払わない

――というネタをまとめようと思ってたけど、まとまらなかったので適当に。

仮説

  • データにはお金を払わない。
  • でも、モノやサービスにだったらお金を払う。
  • 日本では「モノ>サービス」。
  • 米国では(おそらく)「サービス>モノ」。

モノである価値

  • 電子書籍は紙媒体の半額程度であるべき」という主張があるわけだけど、これは紙の価値を価格の半分程度と見ているわけだ。でも実際の紙の価値(コスト)は1/10程度。
    • だとすれば、紙は実際の5倍の価値を認められている。
    • また、1/10のコスト追加で2倍の価値を認められるのだから、電子版として売るよりは紙媒体売る方がいい、という判断になるのは当然。
  • 電子辞書やナビ(地図)はハードウェア一体型で、ちゃんと売れている。

サービス(およびそのオプション)にお金を払う事例

  • 携帯ゲーム(サービス)のオプションアイテムには払う。
  • コンシューマゲーム(サービス)のDLC(オプション)には払う。
  • iTunesKindleというサービスのオプションとして認識されてるのでは?
    • つまり、「音楽データ」「書籍データ」をダウンロードしているわけではないのではないか? だって他のサービスでは利用できないわけだし。
  • 携帯の着うたも、「音楽データ」のダウンロードではなく、「着うた」サービスのオプションという気持ちなのでは?
    • だから機種変等でオプションが使えなくなっても不満はあまりない。
    • サービスのオプションなのだから、DRMがガチガチでも問題はない。問題になるのはサービスの使い勝手(KindleDRMはガチガチでサービスの向上を実施している)。

データを売る時は、モノに固定するか、サービスのオプションにするか、どちらかにすべき

  • 「データ」を販売しようとすると、(データには価値を認めていないから)「高い」という不満が出る。
    • ついでに、「データ」は「勝手に扱えるべき」と思っている人が多い(価値を認めてないから)。
  • ゆえに単純な「データ」として売るのは筋が悪い。
  • 売るなら「モノ」に入れて売る。
  • 日本での価値は「モノ>サービス」なので、microSDなどで売った方が成功する確率が高そう。
    • また、日本ではサービスの価値は低くモノより安価にしないといけないから、サービスとして提供するメリットが少ない。
  • あるいはサービスのオプションとして売るべき。
    • 電子書籍なら「読むサービス」と「そのオプション」と認識されるようにするべき。
    • 相変わらず「端末(モノ)」と「データ」を売ろうとしてるように見えるけど、だとすれば失敗するでしょう。
  • 米国での価値は「サービス>モノ」なので、iTunesやKindlが成功してるのかもしれない。
    • 米国で「漫画を読む」サービスを提供できるならそこそこできるかも?(日本と同じ価格で出しても圧倒的に安価でもあるし)

追記(2011-01-24)

 今回のネタは昨年ずっと考えてたもので、年末にまとめられず、新年にも書けず、面倒になって適当に書き散らしたモノなのに、珍しくコメントが多くてちょっとびっくり。

(ちなみに個人的なポイントは「日本人でもサービスにお金を払うよ。モノに対してほどではないけど」ってあたりだったりします)

K

確かに大幅に安くなると考える傾向にありますよね。米国のKindleが発端ですかね。

実際にはサーバーコストやら書店に置かれなくなるが故の販促費用、電子版でのさまざまなフォーマットに対応するための編集・データチェックがかかってきますからね。そこらへんへの理解も必要でしょうね。

 「データは安い(価値がない)」ってのは昔からだと思います。電子書籍に限った話ではないですので、Kindleの前にiTunesがありますし、まあそれ以前からずっとそうです。

 コストの話は昨年散々書き散らしましたが、「理解されることはないだろうな」ってのが今回の記事の結論でもあります。

d:id:ks1234_1234

すみです。お世話になっております。

(略)

たぶん、「缶コーヒー、着うた、100円ショップ、そのほかもろもろ、その金額が刷り込まれているんじゃないか」と推測です。なぜか、内容の単位を問わず、150円だと通用します。

(略)

 なるほど。携帯コミックが1話50円~100円で提供されてるのは理にかなってるのかもしれませんね。

(僕の端末は対応してないので、実際どの程度なのかは確認してませんけれど)

 それにしても漫画雑誌(のページ単価)は滅茶苦茶安くて、週刊漫画雑誌はそれに輪をかけて安いですからね……。あれを基準に値段を判断されると、そりゃ商売にならないだろうなぁって気がします。

d:id:yuuki-n

紙の価値は1/10程度かもしれないけど、紙媒体を流通させるコストや在庫リスクなどいろいろ考えるとその数倍は行きそうだと思うのだけど、1/10ってのはその辺りも含んだ数字なのですか?

 流通については以前にも書きましたが、現状の配信は紙媒体と同じか紙媒体より高コストです。

(もちろん将来的に変わる可能性がないとは言えませんが、ここ数年のうちに値下がりするようには見えません)

 在庫リスクなどについては、例えば初刷りの50%しか売れなかった場合であれば印刷経費は1/5になるでしょう――が、それでも1/2が印刷経費になるということはないわけです。そしてその場合ですら実際の価値(コスト)の2.5倍の価値があると判断されてるわけですよ。

 逆に増刷がかかるケースもありますので、そのあたりを勘案すれば概ね1/10と考えても差し支えないと思っています。

d:id:mohno

コンテンツだけじゃなく利便性とか保存性とかを加味しつつ「買い」かどうかを判断しているだけで、一概に「モノ>サービス」ってことではないと思いますよ。

たとえば、プレーヤーなしで読める「書籍」は、プレーヤーを必要とする「電子書籍」よりも利便性が高い、という判断もありますよね。

 一概に「モノ>サービス」ではない、というのはそうだと思います。モノにこだわるのは日本くらいで、他はサービス重視かも?という気はしていますし。

 ただまあ、日本に関してはCDやDVDに対して高い値段を払っているように見えますし、「モノ>サービス」である可能性は高いんじゃないのかな、という気はしています。

(グッズ類の売上もその傾向を示していると思いますし)

 いずれにしても「単なるデータにはお金を払ってくれない」ので、データを販売するのは筋が悪いと思っています*1

b:id:axjack データは(媒体に掛かるコストを無視すれば)容易に複製可能、つまり量が無限大なのだから価値は0になるのは需要供給曲線を考えれば自明の理なのでは? [2011/01/23]

 それは違うと思います。「需要と同数を供給可能である」だけであって、需要は無限ではありません(したがって無限に供給することもありません)。

 例えば制作コスト100万円のデータに対する需要が1万の場合は100円で提供可能ですが、需要が100しかなければ1万円で提供せざるを得ません――つまり、「需要が多いデータは安価で提供できるが、需要が少ないデータは高価になる」わけです*2

(実際に販売する場合は需要が確定していないので、こんな簡単な話にはならないわけですけれど)

 ――というわけで、実際には高値で売りたいデータもあるわけですが、データにお金は払ってくれないので「データは売らないほうがいいんじゃないの? 売るならモノにするかサービスのオプションがいいんでないかな」と思ってるわけです。

b:id:tatsunop [business, publishing] コンテンツに限らず無形の物に金を払わない傾向があるかと。サービス・アイデア・イラスト・デザインとか、制作時間コストや技能習得コストは軽視されがち。/ 額が決まってるものが比較的支払われやすい感じかも。 [2011/01/24]

 サービスに対してはお金は支払われてる気がしますよ(僕も意外に思いましたが)。

 僕は実装を伴わないアイデア単体はパブリックドメインでいいじゃんと思ってるくらいなので、あまり価値を認めてません*3――逆に単なるアイデアに価値を主張する人が多すぎると思ってるくらいです。これは無形かどうかとは関係ありません。

 イラストでもモノ(印刷物)ならちゃんとお金を払われてると思います。デザインにしても、「良いデザインのモノ」は高くても売れてますから、お金は払われてるんじゃないでしょうか。

 「額が決まっているもの」=相場については重要だとは思います(というかその点について言いたいことがありますし)。ただまあ、「データの相場」が高くなるような気があまりしないのですよね。。。

(それでも電子書籍を投げ売り価格にしなかったのはよかったとは思っています)

追記(2011-02-01)

b:id:kz78 お金を出して買ったデータにはコピー防止だの独自フォーマットだのがあって使いにくい。ネットからタダで違法に入手したデータは汎用性のある形式でコピーし放題。どっちがユーザーの望むものかは自明。 [2011/01/25]

 このような主張をする人がたまにいますが、「DRMなしなら紙媒体の2倍の価格を払ってもいいよ」と言う人を見たことがありません。また仮にDRMなしで紙媒体と同価格で売ったとしても「高いから買わないよ」と言う人が大多数だと思います。

 逆に、DRMガチガチなiPhoneiPad向けアプリの電子書籍が売れていたり、携帯向けコミックはちゃんと売れてるわけですから、このような主張には全然説得力がないわけですよ。

 ゆえに「モノやサービスにお金は払うけど、データにはお金を払わない」という仮説には真実味があると思っています。

(いずれにしても「不便だから利用しない」「高いから利用しない」べきであって、他者の権利を侵害していい理由にはなりません。おそらく侵害しても問題ないと思うくらい「コンテンツなんかには価値がない」と思ってるんでしょうけれど。対価を払わない泥棒がエラソウな主張をする理由が分かりません

b:id:mikemaneki [生活, 社会] これ、すごいわかるなぁ。本の内容というよりは、本のガワにお金払ってる感じ。私自身も電子書籍に対する不信感みたいなものあるし。 [2011/01/30]

 デジタル媒体に対する不信は強いと思います(あるいは、紙媒体に対する信用は強いと言うべきか)。

 出版状況クロニクル(2011年1月)でも触れていましたが、

電子書籍に関する問題点はデジタル保存の有効性、耐久年数、デジタル媒体の規格の変更によるコストなどだが、彼らはそれを「耐久メディアほどはかないものはない」の章で語り、映画などにおける「一連の記憶媒体」について述べている。フロッピー、カセット、CD-ROMは画期的な耐久メディアのように思われたが、現在では見向きもされず、DVDもいずれお払い箱になるだろう。それらを見るためには古いハードを常に持っている必要がある。しかしそれらはもはや生産されていないから、現実的に無理であることになる。またこれらのハードを機能させるための充分な電力が将来的に確保されていくかどうかはわからない。それに反して紙の本だけはハードなくしても読むことができる。

確かにこれらの指摘はよく実感できる。映画に関して、VHSとベータ、レーザーディスク、DVDとソフトは変化し、VHS、ベータ、LDのソフトは無用の物となり、もはや捨てられてしまったと考えるしかない。DVDもブルーレイにとって代わられ、同じ運命をたどるだろう。それに耐久性の問題については疑問だらけである。電子書籍問題についても、このような視点を持つ必要があるだろう。

別の章で「愚かな者は結論を出したがる」というフローベールの言葉が引かれているが、これは電子書籍に対して向けられているようにも思われる出版状況クロニクル33 (2011年1月1日〜1月31日) - 出版・読書メモランダム

――という感覚は、多くの人が納得するものだと思われます。

*1:その意味では、データを勝手に使わせないためのDRMは必須になると思っています。

*2:ちなみに生産数をコントロール可能な工業製品もこのような傾向があると思われます。

*3無価値だと思ってるわけでもないのですけれど。