「Jコミ」について(勝手に)語ってみよう。

Jコミ」について(勝手に)語ってみよう。

 1年ちょっと前に「赤松健がネット配信するなら期待するよ!」的な事を書いていたら本当に「Jコミ」という形でネット配信を始められるようなので、僕が注目した点を簡単に。

 「Jコミ」のポイントは「過去に商品価値があった(商品価値を失った)作品のリサイクル」「広告配信システム」「低コスト運営」じゃないかと見ていますので、まずはそれぞれについての感想を書いておきます。

過去作品のリサイクル

 作品リサイクルとしては復刊ドットコム*1コミックパーク*2がありますし、電子書籍販売でもとうぜん行なわれています――という点では、実はあまり珍しいビジネスではありません。

 「Jコミ」は前述のような既存の法人でも商品価値を付加できなかった作品に商品価値を付加しようとするのがポイントですが、既存の法人が手を出さない=採算が取れるほど売れる可能性が低いと判断しているわけですから、それでビジネスを展開するのは(少なくとも他と同じように「一般販売する」のは)難しいと思われます。

 それを打開する方法として「広告媒体」として「法人に販売する」事を選んだようです。

(ここが既存のリサイクルと決定的に違う点でしょう)

広告配信システム

 最初に気になったのは「本当に広告を売れるのか」という点ですが*3、それについてはきちんと専門家と検証されているようですし、いけると踏んだから「Jコミ」を公表されたのだと思いますので、その点については今後の経過を待ちたいと思います。

 僕が「ちゃんと広告枠が売れるかも」と思えたのは「過去に商業流通していた=過去に価値を認められた作品を利用する」という点です。過去に商業流通していたのであれば一定の品質を期待できますし、既知の作品であれば広告主としても判断しやすいでしょう。

 ただ、広告枠がなかなか売れない作品も当然出てくるでしょうから、そのあたりをどうシステムでカバーするつもりなのかを注目しています(FAQにもいくつか書かれていましたけれど)。例えば「作品指定」「作家指定」「ジャンル指定」「どれでも」みたいなランク付けがあって、広告枠の価格が違ってくるのかな? と予想していますけれど。実際にはどうするのかな?

(特に気になるのは広告枠が売れない作品の扱いです。「どれでも」みたいな出稿が多いのなら問題ないとは思うのですけれど)

低コスト運営

 一般ユーザーからのデータ投稿を受け付けて配信するということは、既存作品の電子化で高コストなのが「スキャニング」と判断している(あるいはそういうデータがある)のでしょう*4。投稿受付の場合に品質の確保が気になるところですが、そこは権利者の判断に任せるようです――つまり、権利者も多少のコスト(時間)を払うことになるということです*5

 僕が気になっているのは支払いの管理です。作品が増えてくるとかなり少ない金額の売上になる権利者も出てくると思うんですよね。おそらく一定金額を超えた場合 or 1年に1回の支払いになるのだと思うのですが、数が増えてくるとその管理が大変になりそうな気がするのですが……*6。そうでもないのかな?

 取り扱い作品に「過去に商業流通していた」というフィルタリングをかけるのは、この点でもコストの削減に繋がりそうです。

 コストを減らしても権利者とのやりとりや広告主とのやりとりの間に立つ営業的なことをする人の人件費は発生すると思われるので、そこを少ない人数で回せるかもポイントになるかもしれません。

(この辺りが全く見えないので、ちょっと気になっています)

感想

 ベータテストに関して言えば、注目度が高くかつ『ラブひな』という強力なコンテンツでのベータテストになりますから、おそらく考えられる一番いい条件でのダウンロード数・クリック数になるかと思われます。この最良条件でどれくらいの結果が出るかである程度の評価はできそうです。

 僕としては、これだけの条件が揃っているならここで書かれた数値は軽く超えて欲しいですし、超えないようだと企画としては結構厳しいんじゃないのかなと思います。

 だからといって、クリック数がアベレージで1万(上記ページの2倍)いくかと言われると「結構微妙では?」という気もしています。1巻に掲載されている広告は期待できると思うのですが、最終巻(14巻)のクリック数はそれほど伸びないでしょうし。

 本稼働の際には長期間の統計になるでしょうし、単巻あたりの売上が問題ではなく作品トータルの売上があれば問題ないという判断もあるとは思いますけれど。

 本稼働の時に気になる点があるとすれば、サイトに掲載された直後以外の動きは悪くなる可能性が高いため、持続的にダウンロード数・クリック数が一定数を確保できるのかどうかですね。

 一般的なサイトでは持続的にするために作品を定期的にリリースするわけですが*7、「Jコミ」のシステムではそのような管理ができるとはちょっと考えにくいですから。

 権利者的にはジワ売れでも問題ないかもしれませんが、広告主的にも問題ないのかという点が気になるところですし、「Jコミ」を維持するためにも持続的なダウンロード(サイトアクセス)が必要だと思いますしね。この点についての対策はまだ何も書かれていませんので、今後のコメントに注目しています。

追記(2010-11-23)

 書き忘れてたけど、この企画を評価しているのは「売れ行きの見込めない作品に商品価値を付加する」というところです。

 ネット系企業はだいたい「売れてる(オイシイ)作品を(タダ同然で)よこせ!」と主張ばかりしてますからね。それじゃあ今まで作品(コンテンツ)に投資していた企業と対立するのは必然でしょう*8。逆に今回の「Jコミ」のように、商品価値のなくなった作品に新たに価値を付加する試みであれば既存の出版社の協力も望めるわけですよ。

(ただし企画としてはやはり難易度が高い気はしますので、上手くいかなくて速攻で撤退する可能性もあるわけです)

*1復刊ドットコムは再刊行がメイン。電子書籍もやっている。

*2コミックパークは漫画のオンデマンド出版。

*3:ダウンロード数やクリック数に対して広告枠の売れ行きが悪いと問題になりそうです。

*4:既存の電子出版が全ての作品に手を出さない理由の1つは、データを作るための初期コストが一定期間で回収できないからでしょう。

*5:もし確認するコストを支払いたくない権利者がいたとすれば、その作品はJコミで取り扱いができないことになります。

*6JASRACは少額でも振り込まれるみたいで、あれらの管理コストはそこそこ大きそうな気がしてるのですが、実際どれくらいのコストなのか気になっています。

*7電子書籍関連で「最初に読める数が少ない」という批判を目にする事があるけれど、売上的には一度にまとめてリリースするより、定期的に(徐々に)増やしていくほうがいいはず。

*8「テレビ局」を買おうとしたのに「制作会社」や「コンテンツホルダー(レーベル)」を買おうとしたネット企業はいなかったでしょ? あの時に「ああ、ネット企業はコンテンツに価値なんか認めてないんだ」と思いましたもの。