電子ブック関連の雑感(2010年7月期)

電子ブック関連の雑感(2010年7月期)

 意外にネタ切れにならず今月もいろいろあった気がします。

 「電子化すれば紙媒体よりも流通コストが安くなる」と主張している方の運営する電子書籍配信会社は販売価格の50%を配信手数料としてとっていて、紙媒体の流通(定価の約30%)よりコストが高いという状態になっています。他にも販売価格の50%を主張しているところはいくつかあるようで*1、少なくとも現状では「電子配信すれば流通コスト削減」なんて主張は間違っていることがはっきりしたようですので、いい加減「コスト削減」を主張するのは改めて欲しいところ>一部の方々*2

 販売会社によってはファイル容量に対して定額の支払いを求めたりするようですから*3、紙媒体でいう倉庫代もかかる可能性もありそうです。

 それにしても、販売価格に対して一律の割合で手数料をとるなんて、ボッタクリですよね。

 DLsite.comあたりだと販売価格に応じて手数料が変わっていて*4、そっちのほうが合理的だと思うのですが、新規参入でそういうことを聞かないのが不思議です。

 既存の出版業界を批判している人が多い割には、販売価格に対する比率で考える人がほとんどなのが不思議です。「販売手数料が○○円、卸値が○○円、著者印税が○○円」という風に、比率でなく金額で考えた方がよいと思うのですけれど。

 「電子書籍の販売目標は5千~1万部では?」という記事を読んだ時に思ったのは「え、そんなに売る必要があるの?」ってこと。紙媒体でもだいたいそれくらいをターゲットにするのが普通だと思っていましたから*5。……いや、小さい版元だともっと少部数じゃないかな?

 電子書籍で5千部も販売しなくてはいけないのなら、紙媒体で出した方がいい気がしますよ。電子版は紙媒体の5%程度しか売れないみたいですし*6、裏を返せば電子書籍で5千部売れるものなら紙で10万部を見込める気がします。

 電子書籍まわりの記事を読んでいると継続的なことは考えてる人はあまりいなくて――「とりあえず話題になるからやってました」というノリに見えるので――あまり評価できないんですよね*7。「バブルだなぁ」と思うのはその「継続性のなさ」にもよる気がしています。

 逆に過去に電子書籍に取り組んできた会社や組織については評価してるのですが*8、ネット世間では割と逆の評価なんですよね。

 最近は「電子書籍は小売(書店)がインターフェイスを決める」のがいいんじゃないかと思っています。その上で「好きなインターフェイスを選ぶ」のがいいんじゃないかと。

 そもそも好ましいインターフェイスはジャンル毎に違っていて、それぞれで別の端末を使うのが自然のように思います。少なくとも小説と漫画は求めるものが違うはずで、例えばKindleで小説むのはいいかもしれませんが、漫画を読みたいとは思いません。

 また、小説にしてもそも表示方法は端末によって違っているはずです。例えばKindleで縦書きは期待できないかもしれませんし、読みやすい組版になるかもわかりません。それでもKindleでいいと思って使う人もいれば、縦書きの綺麗な組版に拘って、そういう表示ができる端末を買う人もいるでしょう。

 そう考えた時に「版元-取次-書店」というモデルは重要じゃないか、とかちょっと思いました。

 このモデルのよいところは「書店が取次に要求すれば取り扱っている作品を入手できる(はず)」という点で、これによりおそらく「書店」――つまりより便利なインターフェイス端末を作ったところが参入しやすくなりそうだからです。

(ケータイについては詳しくないですが、おそらくそんな感じで結構沢山の販売サイトがあるんじゃないかと思ってるのですが……違うかな?)

 「電子出版制作・流通協議会」の言う水平分業というのはおそらくそんな感じのところを狙っているんじゃないかと期待しています。

 あとは「日本向けの電子ブック端末」ですかね。

 Kindleの日本語対応はどうなるのか分かりませんし。ソニーリーダーのほうがよさげな噂も聞きますが、組版とかはどうなんだろう。シャープは実績があるからある程度期待していいのかなと思いますが、透過液晶タイプだとガッカリですね(反射液晶ならアリだと思います)。

 以前から何度も言ってるように漫画用端末を作るべきで、そこで全集を売るのがベストです。極論を言えば新刊は必要なくて、まずはたびたび文庫や愛蔵版になっている売れ線を押さえて定期リリースするのがよろしいかと。というかゲーム機とかだと「キラーコンテンツを!」という話をよく聞くのに、電子書籍でそういう話をする人を見かけないのが不思議。作品数に拘ったってダメですよ(特に普及前はね)。

*1:確かGoolgeブックスもそうだったかな。

*2:自分で運営をすればそのあたりの認識が是正されると思っていたのですが、今でも「流通コストが安くなる」と言い切ってるのはどういうことなんだろう。言い訳してる様子もないから、単に気付いてないのかな。

*3倉庫代がかかる一例漫画 on Webも同様にかかりますが、決済手数料は他より若干安め。ただ、いずれにしても固定費がかかるのは痛いというか、売れない作品を置きっぱなしにできないから、作品を引き上げ(=絶版)なくちゃいけないんだけど、「電子書籍なら絶版がなくなる!」と主張してる方々はどう思ってるんだろう。

*4:安価なものだと紙より高コストに(手数料比率が高く)なって、高価なものは低コストに(手数料比率が低く)なってました。

*5:あくまで僕の知っている範囲ですが。

*6:もちろん今後伸びるという意見もあるでしょうけど、紙より確実に読める人が少ないですからね。

*7:継続性が必要なのにそれを考えてないものに対する評価は低いのです。

*8:少なくとも「今すぐ日本語組版が使えるXMDF」と「いつか日本語組版ができるかもしれないePub」だったら、間違いなく前者を選びます。