本田雅一さんの「電子書籍2010夏」を読んで気になった点のメモ。

本田雅一さんの「電子書籍2010夏」を読んで気になった点のメモ。

 北米の出版市場については知らない点について多いので参考になったのですが、他方で日本の市場についてはきちんと調査されてないような印象でした*1

 以下、「電子書籍2010夏」から適当に引用しつつ。

 米国の書籍市場は少し前までバーンズ&ノーブルとボーダーズという、2つの巨大書店チェーンが市場を支配してきた。2008年の数字で恐縮だが、バーンズ&ノーブルは全米726店舗、ボーダーズは515店舗の大型書店を全米に展開。毎年のように出店数を増やしてきた。

 実は日本でも書店の総売場面積は最近まで増えているんですね。

 書店の数が減ってはいるのですが、それは主に小規模店で、大型店が増えたために総売場面積は(少なくとも2008年までは)増えています*2。それがいよいよ総売場面積も減少に転じたらしく、一部で騒ぎになってたような記憶があります*3

 その意味で記事の後半に

 収益性が悪化すれば、回復見込みのない店舗は次々に閉店せざるを得ない。例えば2009年に新規出店された書店は286あったが閉店ははるかに多く951店舗。つまり665店舗が純減数だ。

 

 すると閉店した店舗の売り場から出版社に、大量の本が返品されてくる(前述したように委託販売の形式を採っているから)。市場が30%小さくなるということは、売り場面積もおよそ30%減ると考えられるので、おおよそ2,000~2,200億円分の本が、各出版社に返品されて戻ってくるのである。すると、とたんに経営が苦しくなる出版社が増え、中には倒産となるケースも出てくる。

――なんて書いていて、日本の出版市場についてまるで調査せずに適当な印象で書いているのが分かります。

(それ以外にも日本の書籍市場に関する説明は間違ってる点が多々あるみたいなので、ちゃんと取材して訂正記事を書いて欲しいところです)

 まあそれはさておき、「2つの巨大書店チェーンが市場を支配してきた」というのが事実なのだとしたら、出版社も含めて北米は寡占状態になってるのでしょう。そこが書店も出版社も数が多い日本との大きな違いのような気がします。

(あとは書籍と雑誌が分離している(らしい)のも大きな違いでしょうか)

 逆に似てる点と言えば、日本のAmazonが書店トップの紀伊国屋を抜いたと言われたのが同じ時期だった(気がする)ところでしょうか。

 その記事のブックマークコメント

b:id:ks1234_1234 [電子書籍, マーケティング, 海外, 出版, デジタル配信, ビジネス] というか、アメリカでも成功しているのは、「紙の本もデジタル本も両方扱っているところ」であることをもっと強調したほうがいいのでは。あと、日本がiPadを妙に電子書籍リーダーにしたがりすぎてる現実を(くりごと [2010/08/20]

――という指摘があって、確かにその通りだなと思いました。

 その意味では大日本印刷bk1で何かやるらしいのは期待してはいます。

 ここで楽天ブックスに期待できないあたりが日本のネット業界のダメなところじゃないかって気はしますけどね。

(少なくとも「電子ブック端末」に投資したりするネット企業はないでしょ)

追記(2010-08-23)

b:id:ks1234_1234 [出版] すくなくとも東京ではジュンク堂が店出すたびに「店舗面積」更新してて元気よかったですな。▼街書店が潰れる話で最近書くようにしてるのは、田舎街の八百屋や精肉屋はもっと早くとっくに潰れている現実。 [2010/08/21]

 「田舎街の八百屋や精肉屋はもっと早くとっくに潰れている現実」を忘れてる人は多いですよねぇ。他にも魚屋とか、ほぼ全部スーパーやコンビニにもってかれてます。

 他にも電気屋とか自転車屋も壊滅してるんじゃないかと思いますが――あ、自転車屋については売上でサービスの占める比率が多いので(パンク修理とかね)意外に残ってるのかな。

b:id:mohno [浅倉卓司, 本田雅一, 出版, 電子書籍, リテラシー, 修正した] 経産省の商業統計「書籍雑誌小売業」によれば売場面積は368万㎡(平成14年)→375万㎡(平成19年)。2008年の金融危機以降に減っている可能性はあるけれど、それは“書籍業界”に限った問題ではないし。 [2010/08/21]

 公取委の資料は「(株)アルメディアのデータを基に作成」で「126万坪(2001年)→141万坪(2008年)」とのことでした。その資料では2001年~2003年まではほぼ変わらずで、それ以降徐々に増えていった模様です。

 「売り場面積が減った」のが話題になっていた(気がする)のは、ここ数年は「売場面積が増える→店頭在庫が増える→出版社にはお金が入る」状態で、売れなくてもお金が入ってくる状況があったけどこれから苦しくなるよ、的な内容だった気がします。

(売れなくてもお金が入っていたという意味ではちょっとした「バブル」だったという事ですね)

 この辺については詳しくないので、実際どうだったのかは分かりませんけれど。。。

 そうそう、本田さんの記事の

2014年までに全市場の10%程度が電子版になると予想すると680億円

――という妄想に対してツッコミ忘れていたのですが、どういう根拠なんでしょうね。

 「電子書籍は安く」という圧力があるってことは部数的には10%どころか15%くらいを占める必要があるわけですし*4、全ての「書籍」が電子版で提供されないだろうから提供される書籍についてはそれ以上(おそらく50%くらい)が電子版として売れなくちゃいけないだろうって気もしますし、図書館等(及びおそらく法人でも)で電子書籍は買われないだろうことを考えると、端末が相当普及したと仮定しても市場の売上の10%を占めるのは厳しいと思うんですけどね。そもそもAmazonで売れてる紙媒体が全部電子媒体として売れても厳しいんでは?

 ……いや、紙媒体の書籍市場が1000億円を切るようなら売上の10%を占めるのも不可能ではないかもしれませんけれど。

(コミックや写真集を含めるなら、確実に占めますし)

*1:なので、北米の話についても保留付きで参考にすべきかもしれない。

*22008年の公取委の資料(pdf)のp.8より。

*3:ただしソースが分からないので、記憶違いかもしれない。

*4:紙媒体に対してどれくらい安く提供されるかにもよりますが。