電子ブックで何故か語られない話。

電子ブックで何故か語られない話。

 電子出版の話は何故か「率」の話ばかりしていろいろ誤解を与えている気がするので、これをちゃんと実売で考えてみよう。

 本田雅一さんの記事を元にすると、紙媒体で定価1000円の本は

  • 書店 200円
  • 取次 100円
  • 印刷費 100円
  • 出版社 600円
    • うち、著者印税 100円

――になります。

 同じ書籍を電子媒体として売る場合、記事では「配信元・出版社が3:7で」という話が書かれていて、

  • 配信元 300円
  • 出版社 600円
    • うち、著者印税 100円

――という形になりそうに見えるけれど、実際には電子媒体は紙媒体に比べて値下げしないと売れないため、実際の販売価格は800円程度になるんじゃないだろうか(それでも「高い!」と文句を言われる予感がするけれど)。

 この場合の売り上げの分配は

  • 配信元 240円
  • 出版社 560円
    • 著者印税 100円? ――その場合の印税率は12.5%

――になるわけで、実際には紙媒体より出版社の取り分は減っているわけです。

 それどころか配信元から「もっと販売価格を下げて欲しい」という要望がある可能性もあり、例えば700円で販売する場合は

  • 配信元 210円
  • 出版社 490円
    • 著者印税 100円?(印税率は約14%)

――と、紙媒体より大幅に少ない金額しか出版社に入らない可能性だってあるわけだ*1

 その辺を明らかにせずに記事に「率」だけで書くのはいかがなものかと思うわけです(本田さんに限らないですけどね)。

 ちなみに文庫を基準にした場合は上記ほど値下げできず、紙媒体の6掛けで卸すんじゃないのかな? と予想してます。そもそも文庫は安売りしてるわけですから。

(500円の文庫なら出版社の取り分は300円で、それを3:7で計算すると430円での配信になるのかな)

(追記)販売数と収益についても考察しました。

著者印税の話

 ところで、現在は印刷部数に対して著者印税が支払われていますが、電子媒体になると半年(あるいは四半期)ごとに締めて支払われるはずなんですよね*2。とすると、著者にとっては結構困ったことになるわけです。

 上記の書籍の初版が5000部なら、発売日の翌月~翌々月くらいに50万円の印税が収入になるわけですが、これが電子媒体だと発売の数ヶ月後になるわけです。

 さらにそれまでに5000部を売り切っているとは限らないので、収入も低くなる可能性が高いんじゃないですかね。

 最初のうちは紙媒体と併売にするでしょうからいきなり著者の収入が遅くなったり低くなったりはしないでしょうけど、将来的に電子媒体がメインになれば上記のような事は充分起こりうるわけです。その時に著者に対して出版社がどのように対処するのか、ちょっと気になるところではあります。

 そんな感じで、出版社を縛ってるのは流通だけでなく著者との関係をどうするのかってのもあるわけですよ――電子ブックの話では何故かみんな無視してますけどね。

文庫落ちの前に電子ブック落ちすればいいのに

 電子ブックをソフトランディングさせる手っ取り早い方法は、ベストセラーの単行本を文庫落ちさせる前に文庫と同等の値段で電子ブックを販売することでしょう。そうすりゃ安価な文庫と比較されずに済みますからね。

 タイミング的に『1Q84』あたりは文庫落ちする前に電子ブック落ちするんじゃないかと予想してるところですが、どうでしょうか。

 あるいは、文庫落ちさせるほど売れなかった本を電子ブックで配信してみるという手もあるわけですが……管理費がかかるから既存の出版社的には嬉しくないのでやらないかもしれない。

 その場合は昔の文庫のように専門の出版社を立ち上げて、売れ行きが落ちた(最初に出版してから時間の経過した)単行本を集めて「●●電子文庫」とかやればいいんじゃないの? とか思いますけどね。

(とはいえ、全く新規に立ち上げるんだと、著者との関係を築くのが難しい気はしますけれど)

追記(2009-01-09)

 出版社としては卸値500円あたりに拘っていて、率には拘っていないんじゃないか――というお話です。

 だからAmazonが7:3で売りたいのなら、Amazonは1600円で売ればいいだろう、と(それなら出版社に入るお金は変わらないので)。*35:5なら紙媒体と同じ価格で売ればいい。

 ただその価格だと売れない(と判断してる)でしょうから、それで揉めてるんじゃないでしょうかね。

 とはいえ、単行本なら文庫くらいの価格にはできておそらくはそこが下限だろうから、だったら文庫にする前に電子ブックで売ればいいじゃん、ってのが「文庫落ちの前に電子ブック落ちすればいいのに」と思った理由です。ただし、それ以上はほとんど値下げできないから、文庫本に対する価格競争力は期待できないでしょう。

 ちなみに僕は電子ブックとして売るなら付加価値をつければいいじゃん派ですので、そもそも紙媒体をそのまま電子ブックにするのには懐疑的です。

 あと、既存の出版社にとって問題なのは前にも書いたけど資金繰りだと思ってます。

(著者への支払いタイミングも変わるけど、出版社に入金されるタイミングも変わるわけだ)

 「出版社が倉庫」なら「取次は金貸し(銀行)」なわけですよ。これもあんまり語られていないけど。

*1:印税を10%に据え置く可能性もあるけど、それでも出版社の取り分は減っている。

*2:知り合いはそうだったらしい。

*3本田さんの誤報だそうです。