電子書籍の売り方を考えてみたよ 2011秋(文芸・漫画編)
電子書籍の売り方を考えてみたよ 2011秋(文芸・漫画編)
以前書いたように「調べる」「学ぶ」「楽しむ」というジャンルによって売り方が違ってくると思ってるので、今回は「楽しむ」ものとして「文芸・漫画」に関する話題です。
概要
- 全集を端末にバンドルして売ろう(再掲)
- 作家(と複数の版元)を説得して、「この作家の作品は絶対にココで買える」という契約をしよう
- 物理媒体の仕様を早く確定させよう
- 漫画向け端末を作ろう
全集を端末にバンドルして売ろう(再掲)
僕自身が「文芸・漫画」を電子書籍として買いたいと思うのは、
- コレクションしたいけど、スペースがない(蔵書の体積を圧縮したい)
――という理由です。これを理由に挙げる人は結構多いんじゃないでしょうか。
具体的な話をすると、例えば『藤子・F・不二雄全集』は欲しいけど、置く場所がないから躊躇してしまうわけです。そんな時に全集が全部入った電子書籍があれば買ってもいいかなと思うんですよ。
それに最初から沢山の本がバンドルされているなら「電子書籍端末を買ったけど、読むモノがない」なんてことにはなりませんし、「データ」よりは「物体」のほうがお金を払いやすい気がします。それに「書店で売れる」という大きなメリットもあります――本が欲しい読者は書店に来ますし、書店も高価なモノが売れるのは悪くないんじゃないでしょうか。
――というのが前回書いたネタ。
その後意外なところから電子書籍端末+全集が実際に出たわけですが、他社が続かないのがちょっと残念。
(手塚プロがやるものだとばかり……)
作家(と複数の版元)を説得して、「この作家の作品は絶対にココで買える」という契約をしよう
『藤子・F・不二雄全集』のように「特定の作家の作品全部」が欲しいという欲求は確実にあると思います――「コレクション」ですね。そういう読者(コレクター)を対象に考えるのは、確実な部数が見込めるという点で大変魅力的です。
日本の場合は作家の囲い混みはあまり行われておらず様々な版元から出ていますので、電子化が版元毎に行われている現状では「特定作家のコレクション」を電子書籍で可能かどうかはわかりません――つまり、読者(コレクター)としてはちょっと買いにくいわけです。
そうであるならば、ディストリビューターは作家に「確実にウチから全部の作品を出るようにしませんか?」と口説くべきじゃないでしょうか。「確実にこの作家の作品を入手できる」と考えれば、読者(コレクター)だって手を出しやすいでしょう。
もし絶版のものがあればディストリビューターが積極的に電子化すればよいでしょう。これは作者も読者にとっても魅力的じゃないでしょうか。
各版元に対しては、独占販売を求める必要はないですし、基本的には販売価格も紙媒体と同じで問題ないと思います*1。そのかわり紙版の新刊が出たタイミングとほぼ同時に電子版を刊行できるようにしてもらいましょう。
どうしても同時期に刊行できないのであれば*2、時間差のぶん販売価格をやや下げる方向で*3交渉してもよいかもしれません。あるいは、せめて電子版の刊行時期は新刊が出るときに確約するのがよいように思います。
(どうしても電子化にアレルギーのある版元に対してのアピール方法は後述)
そうそう、販売サイトを作る場合は「作家」を探しやすくするべきであって、版元やジャンルなんかによる検索はあくまでもサブ扱いにすべきです。
(検索ボックスに作家名を入力しなくても簡単に特定作家の作品一覧にたどり着けるようにすべきでしょう)
電子書籍向け物理媒体の仕様を早く確定させよう
電子書籍端末にバンドルされた全集を買う時にちょっと心配になるのは「よりよい端末が出た時にどうなるんだろう?」ということだと思います。
ここでネット志向な方々は「そりゃアカウント登録して別の端末でも読めるように、云々」的な話をしたりするのですが、はっきり言ってアカウント作るのは面倒なんですよ。そのうえ会社がなくなるかもしれませんし?
そういう時に便利なのはやっぱり物理媒体なんですよ。物理媒体で移動できればアカウントなんか作る必要はないですし、サービスの存続期間よりは長持ちしそうです。また電子書籍でまれに問題視される「貸し借り」「譲渡」が大変分かりやすく容易になります。
版元が電子化で懸念する点も「物理媒体」であればほぼ解消されるんじゃないでしょうか。例えば「電子化するとコピーされないの?」とか「貸し借り・譲渡の扱いはどうなるの?」といった点については、「まあだいたい紙媒体と同じですよ」と説明しやすいわけです。
漫画向け端末を作ろう
日本の書籍・雑誌の1/4くらいは漫画らしいですし、電子書籍の売り上げはほぼケータイ向け漫画という話もあります。それくらい漫画にお金を払ってくれる人は多いわけです。
さらに漫画は集めるとかさばりますから*4、「省スペースな電子版が欲しい」という需要は結構あるんじゃないでしょうか。
ただ現状の電子書籍端末(あるいはタブレット)ではイマイチなんですよ。文芸なら単ページでもいいですが、漫画はできれば見開きで見たいし、解像度も足りない*5。
そういう漫画向けな端末*6を出せば――そして人気作家・作品の全集とバンドルして売れば――結構売れると思うんですけどね。
もちろん技術的な制約があるんだろうとは思うのですが、PCを見ててもあまり高画素数方向にはいかないので、そもそも開発してない可能性がありそうなのが気がかりです。
そんなデバイスが出るまで売らないのも残念な気がするので、「現状で作れる漫画向け端末」+「別端末で読めるmicroSD」という売り方もありなんじゃないかなと思うのです。もっといい端末が出た時に乗り換えられるのであれば、今の端末がイマイチでも買ってもいいかなと思えるでしょうし。
補足
今回は文芸・漫画のコレクターとして欲しいモノを中心に考えてみました。基本的には「僕はこういうものが欲しい」というネタであまり一般性は考えていません――が、「ここに確実に需要があるぞ」思っていただけると幸いです。
(コレクター向けじゃないライト層に対して売る場合は、全く別の方策になると思ってます)
電子書籍に対して「蔵書数が足りない」「新刊が出ないのが問題」という話をよく見かけるのですが、そこは必ずしも問題じゃないはずなんですよ。
今回のアイデアが実現した場合は作品点数は少なくなるでしょうし新刊も少なくなりますが、それでも既存のディストリビューターに負けないくらい売れるんじゃないのかなあ、などと思っています。
もちろん、作家をどれくらい口説けるか、またどんな作家を口説けるかにもよりますけれど。まずは電子書籍に積極的な作家さんからお願いしていけばいいんじゃないかと思うんですけどね。
(既に交渉していてうまくいっていない可能性もあるとは思いますが。でも、変な実験をやってる作家さんなら協力してくれるような気もするのですが)