「いつでもどこでも買える」のは正しいのか?
「いつでもどこでも買える」のは正しいのか?
ネットでは「いつでもどこでも買えるべきである」的な主張を見かけることが多いけれど、それは本当に正しいんだろうか。
「いつでもどこでも買える」ってことはすなわち「希少性がない」ってことだ。「希少性=価値」なのだから、「いつでもどこでも買える=価値がない」わけだ。だったらそんな状態にするのは価値を損なうわけで、間違ってる可能性が高いんじゃないのかな?
「いつでもどこでも買えれば便利だよ」というけれど、その利便性に本当にお金を払うのだろうか?
例えば「期間限定で売られているもの」と「いつでもどこでも買えるもの」ならば、どちらを買うだろう? おそらく「期間限定」のほうを買うんじゃないかな*1。
あるいは「いつでもどこでも買える」という利便性があっても「もっと安くしろ」と言われちゃうわけで、利便性に価値があると思ってる人はほとんどいないんじゃないかな*2。
無料配信についても同じことが言えて、例えば普段無料で見ることができないからこそ「期間限定、無料視聴可能!」が売り文句になって注目を得ることができるわけです。ゆえに勝手に配信されるとそういう希少性が損なわれるので、非常に問題なわけですよ*3。
ちなみに「期間限定」については他にもイベント性(同時性)に絡むため、希少性以外の部分でも意味がありますが、今回は掘り下げません*4。
「入手が制限されている」ってのは「購入動機」としては結構重要なんですよ。買うかどうか迷っているときに「期間限定」だったり「イベント限定」だったり「地域限定」だったりしたら、「一応買っておくか」と思ったりするでしょ*5。
特に「買うかどうか迷ってる」ような時には最後の一押しとしてかなり効果的なんですよ。
――という話を書くと「そりゃ売る側の理論だろ」と言われそうなんだけどさ。実際には購入側がそういう価値判断をしてる現実があって、あくまでそれに合わせた売り方をすべきだって話。
例えば。
入手難易度が高いほうが入手した時うれしいでしょ?
入手できなくて悔しい思いをするかもしれないけど、その経験があるからこそ次は入手しようと思うし、入手したときうれしく思うでしょ?
その理由は入手したいのは「価値があるもの」であって、「制限のあるもの=希少性=価値がある」わけだから、そういう意味で入手に制限を付けるのは意味があることなんですよ。
追記(2011-09-06)
僕も昔は「DRMないほうがいいかも」と思っていたのですが、「複製が容易」だと「価値がない」と判断する人が多いので、「DRMなしはスジが悪い」と思っています。
例えば、個人的には「DRMなしのPDF」なら紙媒体より高くていいのですが――それこそそういうモノは「愛蔵版」の範疇なので高くあるべきだと思いますし――おそらく高い値段を付けると「高すぎる、安くしろ」という人がほとんどだと思うのですよね。上にも書いたように、利便性には価値なんて感じてないみたいですし。
(何度も書きますが、「DRMなしPDF」のようなものが出版社から提供されないのは、それに価値を感じて正当な対価を払う人がほとんどいないからでしょう――文句を言ってる方々が正当な対価を払うようには全く見えませんからね)
結局なんだかんだ言って「安いほうがいい」という人が多いみたいですので、適当な制限付きで安く提供する方向で考えるのが正しいあり方のような気がしています。
(上述したように「制限付き」は一部の声の大きい人がいう事とは違って、実はマイナスにはなりませんからね)
追記(2011-09-14)
b:id:kanose [電子書籍] 購入機会の制限は購入意欲の促進に繋がっているよねという話。なんで同人誌が売れるのかという話でもある/DRMなしのPDF販売だけどインプレスがやってますよ。他にもあるんじゃないかなあ [2011/09/12]
あー、確かに「DRMなしPDFが提供されない」というのは言い過ぎですね。インプレスの他にもオライリーが提供していた気がします(未確認)。
とはいえ、先日も書いたように、インプレスやオライリー出しているのは(おそらく)「調べるもの」で、そういうのはDRMなしでも採算がとれそうです――元々数が出ないものですし、電子版も安く売っているわけではないので。
「学ぶもの」についてもDRMなし版を出せる可能性もありますが、「調べるもの」と全く同じ事ができるとは考えにくいです(例えば「紙とのバンドルのみ」のほうがいいかもしれないし)。
しかし「楽しむもの」は基本的にDRMなしでは成立しないと思っています(そしてそれを望んでる人が多いでしょう――「楽しむもの」なんてお金を払いたくないと考えてる人が多いみたいですので)。
b:id:shidho [電子書籍, コンテンツ配信]「無料で」とか「フリーミアム」とか声高に言っていた人たちも、マネタイズの方法が分からなかったから言ってるだけで、有料メルマガが流行ればみんなそっちに行っちゃうと思いますよ、みたいな。 [2011/09/12]
そうですね。最近はちゃんと電子版を出すことで収益を上げている会社もあって、そういうところには出版社も提供するわけですよ。
(これはケータイ漫画が流行っているのを見ても明らか)
これはおそらくAmazonに対してでも同じで、Amazonからなかなか出てこないのは単にAmazonの出す条件が悪いからでしかないんですよ。(どこかで書いた気もしますが)例えば「実際に売れても売れなくても500部分の代金は払う」とかいう条件なら、喜んで提供する出版社が多いと思いますし。
(500部以上売れると思えるなら配信元は損しないので、無理な条件ではないでしょう?)