漫画の原稿と製版データ

漫画の原稿と製版データ

 一色登希彦さんが漫画の原稿と製版データについて書かれていました。漫画原稿は作者が描いただけでなく、写植*1を貼ったりした上で完成品になるので、その完成品は漫画家の手元には残っていない、という話です。

 音楽でいうところの原盤みたいなものだから、それをそのまま漫画家に渡して欲しいと言われても難しいのでしょう。そもそも出版社だってコストをかけて製版データを作ってるわけですから*2、それを持っていかれて勝手に使われるのは面白くないでしょうしね。

 ただ、紙原稿の時は写植を貼ったまま原稿を返していたと思うので、(一色さんも書かれているように)昔の牧歌的な出版状況であったなら製版データをもらえた可能性は高かったかもしれません*3

 ところで「製版データがあればいい」のであれば、(ちょっと前に話題になっていたような)原稿紛失の時に製版データを渡せば解決なんじゃないの? という気もします。

 原稿を無くさないように注意するのは当然としても、出版社なんて紙の山なわけですから、紛失する可能性をゼロにするのは事実上不可能でしょうしね。だとすれば「製版データは漫画家さんに渡すけど、原稿の紛失には目をつむる」というのは落としどころとしてはアリなんじゃないでしょうか*4

 デジタル入稿してる作家さん的には紛失はありえない訳ですが、そのかわり自分でデータを消失する可能性もあるわけで、その時に出版社からデータを返却してもらえるとしたら心強いでしょうし。

 まあとにかく、一色さんも言っているように「製版データの扱いをどうするのか」はこれから徐々にルールを作っていくことになるのでしょう*5

 原盤が手元に残らないという点は、漫画以外でも同じことが言えます*6。校正前のテキストは著者が持っているかもしれませんが、完成品の原稿をテキストで持っている著者はあまりいないんじゃないでしょうかね*7

 あるいは、一部の新書などはインタビューや対談を元にして出版社が原稿を起こしていて*8、著者(にあたる人)がそもそもテキストを作っていない可能性もありますし。

 そのあたりのデータの扱いは今後どうなるんでしょうね。現状だと他社から出しなおす時は校正しなおしてるケースが多いみたいですけれど(そうでもないのかな?)。

*1:今は違うだろうけど、便宜上。

*2:その点について一色さんはちゃんと書かれていてフェアだと思います。出版社は仕事してない絶対悪に仕立てたい人を見かけてうんざりする事が多いので。

*3:その意味で、佐藤秀峰さんや雷句誠さんの行動は、漫画家全体にとってはあまりよくない状況にしてる可能性もあるんじゃないのかな。良くも悪くも比較的ルーズだった出版社が頑なになったとすれば、外部でいろいろ騒がれてるせいに見えますし。

*4:雷句さんの時もフィルムを返却する話が出ていた気がします。

*5:いきなり「こうあるべき」とか言ってもダメだと思うしね。

*6:一色さんは文字の本の著者さんは、テキストデータさえあれば、どのようにも「電子書籍」にアップしやすいなんて書かれてますが、そんなことはないです。

*7:最近はPDFで校正してるケースもあるみたいだから、テキストを抜けるのかもしれないけど。

*8:有名なのは『バカの壁』でしょうか。