電子ブックで誤解されてそうなこと
電子ブックで誤解されてそうなこと
電子ブックは売れる――なんて、配信元は思ってないみたい。
――って話を書いてたら長くなった。いちおう簡単に書くと「配信元が沢山取り分を求めてるのは、売れないと思ってるからでしょ」って話。
数が売れないんだったら販売価格を上げるしかないよね、ってのが僕の意見です。
それにしても「出版社は在庫コストがなくなるんだから、云々」って言う人は多いのに、「配信元は物流コストがなくなるんだから、云々」と言う人が少ないのは不思議。
たまに思うのは「電子ブック端末の販売台数をどれくらいと予想してるんだろ」ってこと。端末が100万台売れても電子ブックそのものの売れ行きは紙媒体と比べものにならないくらい少ないと思うんだけどね。
在庫リスクがなくなる――けど、制作リスクはなくらならいよ。
「電子ブックになれば在庫コストがなくなる」のは確かなんだけど、制作リスクはなくならないよね。
この制作リスクには新人(新作)が売れない時のリスクも含まれてます。出版社は主にここに投資してるわけで、新人(新作)を発掘しない出版社は叩かれても仕方ないけどね。
現状では投資に対するリターンが減ってて、旧作でなんとかしのいでいる感じなのが大変残念ではあります。
既存の出版社の効率が悪いって部分もあるとは思うので電子書籍出版を立ち上げるべきでしょうけれど、投資に対するリターンの減少や、安定収入を得られる旧作がなかったりすることを考えると、既存の出版社よりあんまり有利でないのかもしれません。
ともあれ、新人(新作)を発掘するリスクをとってるのは出版社だってことを忘れちゃいけないと思うよ。
他にも出版社は「信用の提供」という重要な役割があるわけですけどね。この点を軽視してる人が多そうに見えるけど。
これからは個人出版の時代だ――っていうなら、今までだって個人出版の時代でしたよ。
個人出版したいなら、現状だってできるわけですよ。紙媒体ならとらのあなやメロンブックスをはじめとした同人書店で取り扱ってくれますし*1。あるいはDLsiteや電子書店パピレスをはじめとしたダウンロード販売サイトもあるわけです。
(「同人書店ではエロマンガしか扱ってないんでしょ?」という誤解もありますが、実際には「書体の研究」みたいな本も扱ってます)
これらの卸値はだいたい販売価格の7割です。Amazonなんかで売るよりはこっちのほうが利益率はいいんですよ。
そして「出版社じゃ扱ってくれない」と思ったネタを同人誌として出版してる人は今でも結構沢山います。
作家が自分で作品を流通させるなんてのは、同人流通以外でもやってる人はいますしね。なぜか佐藤秀峰の件ばかり取り上げられますが、小池一夫は以前から出版社(小池書院)をやってたりしますし。
それをやる人が少ないのは面倒だからでしょう。面倒な部分を全部引き受けてくれるのが出版社だって分かっていて、原稿を書くことに専念したいと思う著者やライターが多いんじゃないのかな。
――というわけで、個人出版をしたいなら今までだって十分にできてるんです。「同人流通がダメでAmazonならいい」って主張があるのだとすれば、それはただの権威主義でしょう*2。
オンデマンド出版や絶版の再刊は今でもやってるよ。そういうところが電子ブックを出す事に期待しようよ。
電子ブックに近いのはオンデマンド出版だと思うので、それをやってる会社に期待するのはいいんじゃないのかな。
例えば漫画に関してはコミックパークがオンデマンド出版をしてますので、そこが電子ブックに参入するのは違和感ないよね。逆にコミックパークが出版社のせいで電子ブックに参入できないなら、そのときは出版社を叩いてもいいんじゃないかな*3。
絶版の再刊行については復刊ドットコムが精力的にやってますが、こちらも電子ブックに参入するんじゃないでしょうか。
極小部数しか見込めない作品は価格設定を高くする必要がありますし、それなら電子ブックでも採算が見込める可能性が高いと思いますので。もしかすると紙媒体は初版限定、なんて可能性もあるかもね。